
仕事内容、必要なスキル、未経験からのキャリアまで|現場の視点で解説します
クラブの売上の、およそ半分。それが、スポンサー収入です。
裏を返せば、クラブが来季も戦えるかどうかは、新規スポンサーをどれだけ獲得し、既存スポンサーにどれだけ増額・継続してもらえるかに、大きくかかっています。その最前線に立つのが、スポンサーセールスです。
スポンサーセールスとは、ざっくり言えば、クラブが持つ看板やイベント、ファンとの接点といった「資産」を企業に提供し、その対価をいただく営業の仕事です。ただ、ロゴを載せて終わりの「広告の枠売り」だと思われがちですが、実際の中身は、もう少し奥行きがあります。
この記事では、その奥行きを、私がJリーグのクラブで経験してきたことも踏まえて、できるだけかみ砕いて整理していきます。
- すでにこの仕事をしている人には頭の整理として
- これから目指す人には何が大事で何を準備すればいいのかの手がかりとして
読んでもらえたらと思います。
📋 目次
▼ スポンサーセールスとは何か
クラブ経営を支える最大の柱
スポンサー収入は、日本の多くのプロスポーツクラブにとって、経営を支える最大の柱です。Jリーグのクラブ経営ガイドによると、クラブの収入はスポンサー収入・入場料収入・配分金(放映権料など)の三本柱です。
約50%
スポンサー収入が
売上に占める割合
1,700億円
Jリーグ全体の
2024年度売上高規模
過去最高
2022年以降
毎年更新中
売上の大きいクラブでは、一件で1,000万円以上、ときには1億円を超えるような大型案件が経営に直結します。一方、これから伸びていく小中規模のクラブでは、30万円ほどの小口スポンサーを増やしていくことも同じくらい大切です。
大型案件を決めきる力と、小口を地道に積み上げて関係人口を広げる力。どちらが上ということはなく、クラブの状況に合った力が求められます。
スポンサーセールスは何を売っているのか|クラブの「資産」とは
広告の枠を売っている、というのは半分しか合っていません。正確には、クラブが持つ「資産」を売っています。
- ユニフォームや看板・バナーでの広告枠
- スタジアムやイベントの命名権、冠試合
- ホスピタリティ(VIP席や法人向けの観戦体験)
- SNSやデジタルでの発信、選手の起用
- 来場者のデータ
土台にあるのは露出です。企業ロゴが、ユニフォームや看板を通じて何万人もの目に触れ、試合やイベントがテレビやWebニュース、SNSで広く発信される。しかも、勝敗や感情が動く瞬間とともに企業のメッセージを届けられる。これは、他の広告にはないスポーツならではの価値です。
ただ、企業が本当に買っているのは、その露出の先にあるものです。
📢 露出(土台)
リーチ・認知・ブランド露出
💡 その先の価値
ブランド認知・地域とのつながり・社員の誇り・採用力・商談機会・サステナビリティ
なぜ企業はスポンサーになるのか|広告では買えない価値
ただ数字(リーチ)だけを見るなら、テレビやWeb広告に出稿したほうが、より多くの人に、より速く広がります。なぜわざわざスポーツチームのスポンサーになるのか。理由は大きく三つあります。
① スポーツならではの「コアファン」の存在
クラブには、勝敗に関係なく応援し続ける、熱量の高いファン・サポーターがついています。このチームへの愛着や信頼は、そのチームを支える企業にも向かう。マーケティングの世界で「イメージトランスファー」と呼ばれる現象です。
たとえば同じ1,000万円をWeb広告に使えば多くの人に届きますが、積み上がるのは「見たことがある」という記憶です。同じ額をクラブとの取り組みに使えば、そのチームを本気で応援する人たちが「この会社は、うちのクラブを支えてくれている」と好意とともに受け止めてくれる。
ニールセンの調査でも、スポンサーシップに触れたファンは企業への好意や購買意向が高まる傾向が報告されています。
② クラブが積み重ねてきた、歴史とストーリー
Web広告やマス広告は、つきつめれば「枠」を買うもので、お金を出せばどの企業にも同じものが手に入ります。でも、クラブがその土地で育ててきた歴史、地元との結びつき、勝ち負けをともにしてきたファンとの記憶は、いくらお金を積んでも他社が手に入れることはできません。
③ 地域への貢献
いまは多くの企業が、地域や社会の課題そのものをクラブと一緒に解決したいと考えるようになっています。クラブは地域のハブとして、健康づくり、教育、環境、防災、世代を超えた交流と、スポーツにとどまらない「場」を日常的に生み出しています。そこに加わることで、企業の地域貢献につながる。露出という入り口の先に、社会的な価値まで広がっている。それが、スポーツスポンサーシップの奥行きです。
▼ スポンサーセールスの仕事内容と実務
クラブの価値を、企業の価値に「換算」する
クラブの資産には確かに価値があります。でも、そのままでは企業に伝わりません。来場者数、SNSのリーチ、ファンの属性データ——こうしたclubが蓄積したデータを、企業にとっての価値に「換算」して伝える必要があります。
「御社が届けたい相手に、これだけ届きます」と、数字で語れるかどうかが問われます。提案する金額のつけ方も同様で、相手の予算や目的を伺いながら、どの資産をどう組み合わせるかを一緒に設計していきます。
💡 提案のポイント
「これを買ってください」ではなく、「御社のこの予算は、こう使うともっと効きます」という話になります。予算も、広告費だけでなく、採用や販促まで含めて見る。そのうえで、相手のビジネス課題にそのまま応える提案ができるかどうかが、差になります。
スポンサーになってもらって、終わりではない
最近は、契約してくれた企業を「スポンサー」ではなく「パートナー」と呼ぶクラブがほとんどになってきました。お金を出してもらう相手ではなく、一緒に価値を作っていく相手。その意識の変化が、呼称に表れています。
コアファンを自社のファンに変えるには、企業の側がクラブの価値をきちんと使う必要があります。ただ、それを企業任せにしないことが、クラブの営業の腕です。多くの企業は、スポーツのスポンサーシップをどう活かせばいいのか慣れていません。だからこそ、活用の方法まで一緒に提案していく。これが、契約を続けてもらい、より大きなパートナーになってもらうための鍵になります。
活用を回すには、自クラブの他部署を巻き込む必要があります。そこで重要になるのが、他部署のKPIを把握しているかどうかです。集客には集客の、運営には運営の目標がある。その部署のKPIにも貢献する形で企画を組めば、動きやすくなります。
自分の時間も、投資として考える
相手企業の活用に伴走するのは大事な仕事ですが、一つの案件に時間をかけすぎると、その間、新しい契約をとる動きが止まってしまう。だからこそ、自分の時間を「投資」として見る視点が要ります。
「この企画にこれだけの時間をかけ、その時間でこれだけの収入が見込めます」と、自分の工数を投資対効果の言葉で経営に語る。そこまでやって、はじめて話が通ります。ときには外部の力を借りる判断もします。自分が全部やると新規営業が止まるなら、一部を委託する。その配分まで設計できるかどうかが、成果を分けます。
新規営業と既存営業は、役割が違う
🔵 新規営業
まだ取引のない企業から新しく契約をとってくる。リストアップ・関係構築・課題ヒアリング・提案・クロージング。決裁者に食い込み、ここぞで決める力が要る。
事例:2026年、ユニクロがJリーグと包括的パートナーシップを締結。用品供給にとどまらず、ファンを自社サービスへ巻き込む仕掛けまで一体で設計。
🟢 既存営業
いま契約してくれている企業との関係を継続させ、広げていく。関係構築・傾聴・活用提案・実行・レポーティング。信頼を積み上げ、単価を上げていく。
事例:アダストリア×茨城ロボッツ。2016年からのスポンサーが冠試合を開催し、オリジナルグッズ・撮影ブース・特別ユニフォームまで手がけた。
ゼロから取りにいく力と、関係を深めて広げていく力。どちらも同じ「スポンサーセールス」ですが、得意なタイプは分かれます。自分がどちらに近いのかを知っておくと、強みを伝えやすくなります。
スポンサーセールスの実例|私がJクラブで取り組んだ共創
ここからは、私自身がJリーグのクラブで手がけた取り組みの話をします。
① 大学との共創授業
ユニフォームパートナーだった大学との関係を「広告協賛」で終わらせず、「共創型」にできないか——そう考えて立ち上げたのが、その大学の授業そのものをクラブと一緒に作る取り組みです。
学生が、クラブの複数のパートナー企業を分析し、社会課題に着目したイベントを企画。実際にパートナー企業へプレゼンし、協賛を募り、宣伝から実施・効果検証までを学生主体で回す。1年目はプロトタイプとして既存授業に組み込み、2年目からは正式な科目になりました。
この取り組みで生まれた価値
- 企業:「このクラブに協賛していることに、こんな広がりがあるのか」と実感
- 学生:現場でしか身につかない力を獲得。内定・スポーツ業界就職につながった縁も
- 大学:他大学との差別化につながる好事例に
② ビーチクリーン×SROI
デジタル分野のパートナーが主催し、地域のサポーターやパートナー企業と一緒に海岸のごみ拾いを実施。違うのは、そこに複数のパートナー企業が、それぞれの目的を持って集まっていたことです。
主催として旗を振る企業、環境配慮素材のノベルティを配る企業、社員教育の場として使う企業、地域との接点づくりに使う企業——目的はバラバラなのに、クラブがハブになることで一つの場に集まれる。これは、企業が単独で広告を出すだけでは絶対に作れない座組みです。
📊 SROIで社会的価値を可視化
毎回100〜150人が参加。ある回では、生み出した社会的価値はおよそ880万円、投じた資源の3倍超という結果に。「地域に接点を作っている」という事実を、数字で価値として示せる。それも、スポンサーシップの確かな成果です。
③ 採用課題への対応
人手不足に悩むパートナー企業が、ホームゲームでお仕事紹介のブースを出す。狙う年代が集まりやすい集客企画や対戦相手に合わせて日を選べば、出会いたい相手により届きやすくなります。認知だけでなく、採用という具体的な課題にも、クラブの資産は効きます。
⚠️ 正直に言えば
アクティベーションは、一度作って終わりではなく、継続して初めて価値になります。工数に対してパートナー料が見合わず、お互いに物足りなさが残り、続けられない仕組みを自分で作ってしまった経験も何度もあります。だからこそ、「やらない」という判断も重要です。
スポンサーセールスは、契約をいただくことがゴールではありません。「このクラブに関わってよかった」と思い続けてもらえる関係を育てること。企業とクラブが対等な立場で価値を高め合い、その関係を長く育てていく——それが、私の考えるスポンサーセールスであり、パートナーシップのかたちです。
▼ スポンサーセールスのやりがいと必要なスキル
やりがい|経営を支え、勝利を分かち合う
いちばんは、クラブの経営を根っこのところで支えている手応えです。自分が取ってきた一件が、チームの編成やクラブの未来にまっすぐつながる。その実感は、そう味わえるものではありません。
もう一つは、部署をまたいで動ける面白さです。集客、運営、マーケティング、アカデミー——スポンサーの企画は、クラブのあらゆる部署と組んで形にしていきます。そして何より嬉しいのは、目の前の勝利を、支えてくださっている企業の方々と一緒に喜べる瞬間です。
必要なスキルと力|無形の価値を売る
① 相手のビジネスを理解する力
その企業が何で稼ぎ、どんな顧客を相手にし、いま何に困っているのか。何を売るか、ではなく、相手が何に困っているかから入れるかどうかで、提案の質はまるで変わります。
② 価値を翻訳して、可視化する力
動員やリーチ、ファンの顔ぶれを、相手の言葉と数字に置き換えて「御社にとってこういう意味があります」と示す。感覚ではなく、数字で見せて結果で返す。
③ 体験を設計する力
ロゴをどこに出すかで終わらせない。冠試合、ブース、グッズ、デジタル。露出という土台の上に、体験や関係の価値を足し算で重ねて、ファンが楽しめて企業の狙いにもかなう形を企画する。
④ 人を巻き込む力
相手企業の決裁者、自社のマーケや運営、ときには他のパートナーや地域まで。立場の違う人たちを動かし、一つの取り組みにまとめていく関係構築力と調整力。
⑤ 決めきる力
大型の案件ほど、最後は決裁者を相手に、ここぞで前に進める提案力とクロージングが要る。いい話で終わらせず、契約という形にする力。
五つ挙げましたが、もし一つだけ選ぶなら、「相手のビジネスを理解する力」です。担当者と同じ目線で、その会社の事業を考えられるくらいまで理解しようと努力する。そこまでいけば、提案は「売り込み」ではなく「相談」に変わります。
そして、スキルをいくら並べても、最後にものを言うのは一つの姿勢です。相手の成功を、自分の成功だと本気で思えるかどうか。
▼ 未経験からスポンサーセールスを目指すには
まず知っておいてほしいのは、スポンサーセールスは、未経験からでも十分に挑戦できる仕事だということです。
📣 広告代理店出身
提案を組んできた経験がそのまま活きる
🤝 法人営業出身
相手の課題を聞き出して解決策を売る力がある
📊 マーケ・小売出身
データを見ながら施策を打ってきた経験が効く
いまから積めることもたくさんあります。
- 相手の事業を、決算や採用の動きから読む癖をつける
- 自分の成果を、いつも数字で語れるようにしておく
- 小さくてもいいから、企画を立て、人を巻き込んで、形にした経験を作る
このシリーズでは、スポーツクラブの仕事を現場の視点で分解しています。あわせて読むと、クラブの全体像が立体的に見えてきます。
- 集める仕事|集客という仕事
- 迎える仕事|試合運営という仕事
- あわせて読みたい|JリーグとBリーグのスポンサーセールスの違い
参照元
- Jリーグ「クラブ経営ガイド2025」/クラブ経営情報開示資料:aboutj.jleague.jp
- ニールセン「スポーツのスポンサーシップはブランド認知度を高めるだけではない」:nielsen.com
- Jリーグ公式リリース(ユニクロとのパートナーシップ締結):jleague.jp
- アダストリア公式リリース(アダストリアpresents 茨城ロボッツ戦):prtimes.jp
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