
目次
- 1. RB大宮に新設された「ローンマネージャー」
- 2. なぜスチュアート・ウェバー氏はこの役職を作ったのか?
- 3. アーセナルが示す「欧州のキャリアパス」
- 4. 「ローンマネージャー」が「ミニSD」である理由
- 5. RB大宮が吹かせた「欧州の風」
1. RB大宮に新設された「ローンマネージャー」
2026年1月、Jリーグのキャリア市場における「特異点」とも言えるニュースが飛び込んできました。 RB大宮アルディージャが、これまでの日本サッカー界では聞き慣れないポジションを新設したのです。
その名は「ローンマネージャー(Loan Manager)」
濱田水輝 ローンマネージャー 就任のお知らせこのたび、2025シーズンをもって現役を引退した濱田水輝氏が、ローンマネージャーに就任することが決まりましたので、お知らせwww.rbomiya.com
昨季現役を引退した濱田水輝氏が就任したこのポジションについて、同クラブのヘッド・オブ・スポーツ、スチュアート・ウェバー氏はこうコメントしています。
“ローンマネージャーは、ヨーロッパのクラブではスタンダードとなっているポジションで、今回RB大宮でも新設することとなりました。
クラブにとって非常に重要なポジションで、他クラブでプレーしている期限付き移籍中のRB大宮の選手に、必要なサポートを提供します。ピッチ内外での選手育成において、期限付き移籍が重要な役割を担うことが多く、このポジションを通じて、クラブは期限付き移籍中の選手の状況を把握し、適切なサポートを確実に行なっていきます。
元選手として、様々な境遇にいる選手の心情を理解し、共感できる点も重要だと考えており、彼がこのポジションに最適な人材だと思っています。彼の今後の活躍を楽しみにしています。”
2. なぜスチュアート・ウェバー氏はこの役職を作ったのか?
その答えを知る鍵は、RB大宮の改革を主導するスチュアート・ウェバー氏の「前職」に隠されています。彼の前職は、イングランド・チャンピオンシップ(2部)のノリッジ・シティFCでスポーツダイレクター(SD)を務めていました。
そして、彼がノリッジを退任する際、自身の後任として指名した人物が
Ben Knapper氏。(元アーセナル:ローンマネージャー)
アーセナルでは過去13年間にわたり、分析、スカウティング、フットボール・オペレーション領域において、複数の戦略的ポジションを歴任。
パフォーマンス分析部門の責任者として、トップチームおよびアカデミーの両部門におけるシニアスタッフと密接に連携しながら業務を行った後に、ローン&パスウェイ・マネージャーを務め、同クラブにおける選手のレンタルおよび育成に関する運用・マネジメントを担当。
また、彼は元々データ分析会社(Prozone)で働く、分析官。
Prozone(プロゾーン)は、トラッキングデータの先駆者的なデータ会社です。クラブ所属ではなく、データ会社の社員として分析業務を行っていました(当時、スカンソープ・ユナイテッドなどに派遣されていた経歴も)。
そこで構築したシステムと手腕が評価され、プロ経験がないままノリッジの全権を握るスポーツダイレクターへと大抜擢されたのです。
つまり、ウェバー氏は「ローンマネージャーという仕事が、スポーツダイレクター(SD)を育てる最高の土壌である」こと、そして「現代サッカーの経営には、元選手としての感覚以上に、データとテクノロジーへの深い理解が必要である」ことを、誰よりも理解している人物なのです。
3. アーセナルが示す「欧州のキャリアパス」
世界最高峰のプレミアリーグでは、組織とキャリアパスはどう設計されているのでしょうか? 現在(2026/01/21)プレミアリーグで首位を走るアーセナルFC2025/ 26シーズンスタッフから、その最先端を読み解きます。
Arsenal FC – StaffTrainer, Manager und Co.: Diese Statistik listet alle Mitarbewww.transfermarkt.co.uk
Ben Knapperが去った後、現在のアーセナルでローンマネージャーを務めるのは Sam Hayball という人物です。
- Role:Loan Player Manager
- Name: Sam Hayball
Sam Hayball 氏
Step 1: Arsenal Youth Video Analyst
Step 2: Arsenal Video Analyst
Step 3: Arsenal Match Analyst
Step 4: Arsenal Loan Player Manager
Ben KnapperがノリッジのSDに引き抜かれた後、その後釜として就任。彼もまた、Ben Knapperと同じく「アナリスト(分析官)」出身なのです。
つまりアーセナルという巨大クラブにおいて、「分析官 → ローンマネージャー」というルートは、明確に意図された「幹部候補生の育成コース」として確立されています。
これは、アーセナルというクラブが「ローンマネジャーに適任なのは、元選手やスカウトではなく、現代サッカーの戦術とデータを理解しているアナリストである」と定義し、組織的に後継者を育てているのではないでしょうか。
元選手だからではなく、「現代サッカーの戦術とデータを最も理解しているから」という理由で、アナリストが経営側のポストに就く。これが欧州のリアリズムです。
ではなぜ、スカウトでもコーチでもなく、「分析官」が選ばれるのでしょうか?
4. 「ローンマネージャー」が「ミニSD」である理由
なぜ、分析官出身者がこのポジションで輝くのでしょうか?
その理由は、この仕事が欧州では「Mini Sporting Director(ミニSD)」と定義されているからです。
英国の専門メディア『Training Ground Guru』は、この役職をこう定義しています。
“Managing a club within a club”
(クラブの中に存在する、もう一つのクラブを経営する仕事)
Training Ground Guru | Ben Knapper: Why Loans Manager is a ‘mini Sporting Director’BEN KNAPPER outlined why his Loan Manager role at Arsenal couarchive.trainingground.guru
ローンマネージャーは、20人規模のレンタル選手(資産)を管理し、他クラブと交渉し、市場価値を高める責任を負います。
その業務内容は極めて高度です。
選手(資産)を管理し、他クラブと交渉し、市場価値を高める。 規模こそ違えど、その業務の本質はSDそのもの。
近年、リヴァプールのSDとなったジュリアン・ウォードや、ブライトンのテクニカルダイレクター、デビッド・ウィアー。彼らもまた、「ローンマネージャー」を経てクラブの中核に立っています。
Ben Knapperは記事やポッドキャストの中で、
ローンマネージャーの業務を「5つの要素」に分解しています。
①Pathway Plans (キャリア計画):
選手が将来どうなるかの戦略策定。
②Monitoring (監視):
クラブでの成長の確認。
③Placement ID (配属先特定):
選手の成長に最適なクラブを見つける(スカウティング)。
※ローン先の「監督の性格」や「戦術」を分析する
④Monitoring on loan (レンタル中の監視):
試合のチェック。
⑤Next step (出口戦略):
復帰させるか、売却して利益を確定させるか。
How the role of the ‘loan and pathways manager’ is improving footballers’ career prospectsWith the value of young talented players rising in the PSR erwww.nytimes.com
5. RB大宮が吹かせた「欧州の風」
視点を日本に戻しましょう。
日本にはこれまで、「分析官のその先」のキャリアイメージが不足していました。 しかし、欧州のモデルは教えてくれます。分析官は単なる「ビデオ係」ではなく、クラブの資産を守り、育てる「経営人材」の入り口にもなり得るのだと。
RB大宮アルディージャによる「ローンマネージャー」の新設。
これは、単なる一クラブの人事異動ではありません。
「世界基準の機能的な組織を作らなければ、勝てない」
レッドブル・グループという「黒船」が持ち込んだこの哲学は、間違いなく他のJリーグクラブにも波及していくでしょう。
これからは日本でも、欧州のように「専門的なスキルを持つ人間が、正当なルートでクラブ経営に関与する」時代がやってきます。
アーセナルの体制図にある「Sam Hayball」という存在は、遠い国の話ではありません。
これからの日本サッカー界において、新しいキャリアを目指す全ての人々にとっての、近未来の道標です。
ヨーロッパでは「専門職の細分化」と「職域の融合」に向かっています。
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